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メリイクリスマス

 『メリイクリスマス』という太宰治の作品がある。個人的にも太宰作品の中でも特に好きな短編だ。
 太宰と思わしき主人公が戦後の東京を歩く。「東京は依然として変わらない」などと思っていると、昔(特に戦争中に)世話になった女性の娘と偶然出会う。その母親に対しては恋愛感情めいたものは抱いたこともなかったが、その娘ならば、などと妙な妄想を膨らませる。「お母さんは元気かい?」と聞くと突然憮然とした様子になる。ははあ、これは女性ならではの感情だな、と主人公は思う。自分に興味を示すのではなく母親の話ばかりするから嫉妬しているに違いない。主人公はわざと何かと母親の話を振る。娘はますます口ごもる。「近いから君の家まで送って行くよ、お母さんがいたら軽く挨拶するよ」と一緒に家まで向かうと、突然娘は泣き始める。実は母親は戦争で亡くなっていた。久々に会ってまさか家にまで確かめに来るとは思わなかったし、とっさのことで「元気にしています」と嘘をついてしまっていたのだった。主人公は唖然とする。
 
 とまあ、このような主人公の誤解と一人合点の話である。この手のパターンは『親友交歓』や『黄金風景』にもある太宰さんの得意なものかもしれない。しかしこの話もただこのような悲しみを交えた驚きだけではなく、二人で鰻屋に入る場面が実にいとおしい。店の主人に鰻3人前を注文、店の主人は目を白黒させて「え?お客さんは2人ですよね?」と。「なあに、いるじゃないか。美人さんがもう一人ここに」と返すと主人は「かなわねえや」と笑う。遊戯めいたやり取りであるが、ただの冗談ではなく、死者への弔いの思いが込められた場面である。それでいてとても抒情的というか、優しさがあるというか、悲しいけれどどこか読み手を温かくさせる。

 いやあ、こんなことを書いていたら読みたくなってきちゃうな。そうそう、私は今までのあらすじを書くのに本作に目を通していないので設定や会話などは私の想像かもしれない。興味を持った方は本作を読んでみてください。10ページくらいの話ですから。

 そうそう、先日たまたま<太宰にとっての戦争>みたいなことをちょろっと聞いたけれど、『東京八景』や『津軽(短編)』などだけではなく、こういうところにも太宰にとって戦争の影響が出ているのだろう。

 先日の選挙、それにまつわる欺瞞や危険性のことやら、久々に39℃の熱を出したことなど、色々書くネタもあったのだが、今日はやたらと『メリイクリスマス』を思いだしたので、こんなふうに締めくくる。みなさん、メリイクリスマス。

by yokohama0616 | 2012-12-24 21:04 | 芸事